轟龍翼下唯一列島国“ヤーパン”-4-
轟龍を視認したという実体験。
だからこそ己は“加護者-ギフト-”であるという裏付けになるのではなのかという、月並みな仮説。
証明完了-Q.E.D-とするにはあまりにも不確定要素がひしめき合っており、現時点においては深く考える必要はないだろうという判断から、一旦話を元に戻そう。
俺が今置かれている状況、ひいてはこのヤーパンにおける行動目標について。
端的に表現するならば、それはいわゆる護衛に該当するのだろうか?
限られた人的資源(ヒューマンリソース)――“加護者-ギフト-”の三姉妹たる、バハラ・レジイ・モルヴを、安全地帯まで送り届ける用心棒の役割を、アツシ様こと俺は引き受けることになった。
彼女らの目的地は、サイドメイドという地図上には存在しない非公式の集落であるらしい。
47に分割されるヤーパン国内(異変後の現在1つは壊滅しもう1つは閉鎖されている為実質は45である)は、各エリアごとに一等/二等に区分される都市が存在している。
サイドメイドはそのいずれかでもない、いわば隠里の様な役割を担っているといえようか。
20XX年世界は核の炎に包まれた後に魍魎跋扈するヒャッハーなモヒカンのゴロツキが好き勝手しているまでは言い過ぎではあるが、それでもギギの様な無法者達が徒党を組んで少なからずも多からず存在している中で、“加護者-ギフト-”絡みのいざこざから身を隠す、場所そのものが秘匿とされる駆け込み寺の様な安全地帯。
そこに至るまでの道中、彼女らを危険から守るというミッションをレジイより頼まれた為、俺は一緒に行くことになったのであった。
彼女らから話を聞いたり荷台にある書物を読んだりはしているものの、右も左も分からない異邦の地において独りぼっちは心許ないという理由が大半を占めていた為、実質何の役にも立たないという自負をかなぐり捨てての同行であるのは、皆には内緒。
馬車を引く家畜(生物学的名称はイロンホースというらしい)の御者を務めたり、その日ごとの食事にありつく為の狩りを手伝ったりをするぐらいで、数週間の旅路に於いて悪意ある外敵との戦闘は一切発生しなかった。
この世界にやってきた当初は、意味不明なテンションの下に呪文を発動する練習をしながら「一体どんな大冒険が始まるのだろう」等と期待に胸を躍らせていた過去の自分を叱責する訳ではないにせよ、ある意味これはこれで良かったのでは無いかと思う。
何でって? 説明する必要が皆無に等しいくらいに、理由は至ってシンプルだからだ。
断言しよう。
ギギ達と遭遇した時の様な争いは俺はこの先可能な限り回避したい、と。
殴られれば痛いし、刃物が刺されば血が出てもっと痛いし、見えない炎で炙られれば熱いし火傷してもっともっと痛いしで、要するにそういうのが嫌なのだ。
やり返す気すら起きない、何ならあの時俺は死んでいてもおかしくなくて、生きているのが奇跡の様なものであると考える。
だから自分の事を勇者とかノリで言っちゃう割には情けないぐらいにヘタレな実状を加味するうえで、今の俺はある程度の安心と満足感を常々感じながら、美人三姉妹との旅路を謳歌している。
そしてついに、俺達は目的の地であるサイドメイドへと到着したのだった。