堕ちたその先-1-
その男は、神に寵愛されているとしか思えないような、埒外の豪運を持ってしてこの世に生を受けた。
独自に経済学を学び続け、世界規模の長者番付に名を連ねるまでに社会的地位を築き上げるも、男は酷く退屈していた。
ビジネスにおける相対的な負けという概念を味合わないままに富を増幅してきた男は、程なくして非合法な闇社会ともかかわりを持つようになる。
一瞬でも気を抜けばすぐにでも命を失う、常に死と隣り合わせの暴力にさらされる非日常は、かくも男が望んだものだったともいえよう。
利権争いの勝負に一時的に敗れてしまった所為で下半身の感覚を失うに至るも、それでも男は並み居る障害を排除し続け、やがてはその界隈でも頂点に君臨するに至った。
この程度なのか、人生とはかくもつまらないものなのだな、と半ば諦めていたある日。
男はとあるゲームの参加者になっていた。
プレイヤーのそれぞれが固有能力を持ち、それを駆使しながら生き残りを賭けた文字通りのデスゲーム。
敗北がイコールで爆死へとつながる、凄惨極まる過酷な舞台を、男はそれほど苦労することなく決勝戦まで負けずに進み続けた。
しかし、男は優勝からあと一歩のところでゲームから退場することとなった。
自身の保身を最優先にしていたならば、その結果はおそらく全く違ったものとなっていただろう。
敗北の理由は、明白であった。
ゲームを勝ち続ける為、なりゆきで行動を共にすることになった二人の内の一人、ある女性。
男は彼女を、心の底から愛していた。
途中から彼女自身が 別 の 存 在 であることを 理 解 した上で、それでも男は彼女を庇う為、自らを犠牲にした。
命を絶つことになりながらも、男は死に対する恐怖を全く感じていなかった。
願わくばこの身が滅びた後にあの世で彼女に再開できたならば、と。
そんな淡い期待を抱きながら、男は生命活動を停止し、煉獄へと転送された。
本来であれば男は自我を破壊され、暗闇の中で彷徨いながら無限ともいえる時を過ごす筈であった。
が、もはやそれも叶わない。
ゲームの黒幕的存在が奇しくも打ち破られてしまったことによって。
終わった筈の男の物語が、新天地たる並行世界にて、再始動する。