自爆霊穂"無実ちゃんと十一対の並行世界

前作十一人の未来罪人の続編。2021/02/22更新スタート。不定期更新。

秘匿砂上下街〝サイドメイド〟-2-

 砂漠の地下数百メートル直下に設営されたサイドメイドは、俺の想像を遥かに上回るぐらいに“しっかりとした街”であった。


 どのような原理なのか不明ながら、地下にもかかわらず周囲は明るく、且つ遠近感を感じさせない青空の下、石造りの建物がひしめき合う、広大な空間がそこには広がっていた。


 バハラいわく、


「光明を操作する加護者-ギフト-の力を利用しているから、ここは明るいんだ。生活リズムが狂わぬ様、ちゃんと朝と昼と晩という概念があり、時間によってはもっと明るくなったり暗くなったりする」


 だそうで。


 モルブいわく、


「青空というか、実際にはペイントなんだけどねー。触ったら色落ちしちゃうから、アツシ様も気を付けてねー」


 だそうで。


 彼女らにそんな補足説明を受けて曖昧に頷く俺だったが、しかし到着したは良いものの、どうやらまず先に向かわねばならない場所があるらしく、三姉妹に先導される形で俺はサイドメイドの街並みを歩いていく。



「地上から地下、この街に這入る為には加護者-ギフト-であるのが必須条件なのですけど、組合-ギルド-にて登録が必要になってくるのです」


 先導して前を行くレジイがそう言った。


「なるほど。存在自体が貴重な加護者-ギフト-ならではの取り決めという訳だな。うん、賢いな」


「徒党を組むことで情報の漏洩や裏切りを検知する防衛策という意味合いの方が強いかもしれません。悪しき有権者や政府側の人間には未だこの場所はバレてはいないとはいえ、念には念をということですね」


「君たちと出会った時に一緒にいたあの少年、ギギだったか。彼もそっち側になるのか?」


「えぇ、まぁ、当たらずとも遠からずって所ですかね」


 何故か言葉を濁したレジイの反応にやや首を傾げていた俺だったが、やがて目的地へと到着した。


 周囲の建物より倍近く高さを持つ、灰色のレンガらしき素材で建てられた、組合-ギルド-本拠地。


 中へ入ると、1階はまるごと西部劇にでも出てきそうな酒場のような造りになっていた。


「技能測定などは無く、簡単な書面の記入のみで済みます。私たちは事前にここへと来る旨を伝達していたので、アツシ様の分も一緒に行ってきますので、暫くその辺でくつろいでいてください」


「おっ、さんきゅー。じゃあお言葉に甘えてゆっくりしてるから、終わったらまた声を掛けてくれ」


 俺は余裕の表情を浮かべながら手を振って三姉妹を見送るも、彼女らの姿が見えなくなった途端に心細い気持ちになっていた。


(いや、いやいやいやそこは一緒にいくから一人にしないで欲しかったな……。言葉は通じるといえどもただでさえ周りは肌の色の違う異世界の住人だらけな訳で。いや、何も差別とかそういう卑しいアレじゃあないんだ。どっちが上とか下とかそんな概念を差し引いて、俺ってばめちゃ目立つんだよな。ほら、なんか皆チラチラこっちを伺いながらヒソヒソ話をしてるっぽいし……。カツアゲされたらどうしようかなぁ無一文だから逆ギレされて喧嘩沙汰とかになったら本当嫌だなぁ……というかさっき「おっ、さんきゅー」って反射的に答えてしまったけど、繋げて読めば「オッサン級」になる訳で、これは図らずとも俺が俺の事を潜在的な意識の中で老けているって自発的に吐露している証明になるのでは……?)


 心底どうでもよいことを考えながら、しかし出来るだけ平気そうに、なるべく傲岸不遜に見えるように堂々と振舞っていた俺だったが、しかしレジイ達は一向に戻る気配を見せなかった。


 はじめカウンター席に座りバーテンに飲み物をお任せで頼み(ノンアルコールとだけ伝えた)、ちびちびと口を湿らせていたがそれにも限界がある。


 手持無沙汰になりつつあった俺だったが、ここである秘策を思い付いた。というか思い出した。



 学生時代の無駄に長い休み時間をやり過ごす為に編み出した、“全く眠くないけど眠そうな雰囲気を出しつつ俯いて寝てますアピール”という秘策を。