秘匿砂上下街〝サイドメイド〟-1-
体感では正午を過ぎたぐらいの頃合にて、ついに目的地へとたどり着いた。
3人の美女+一匹の豚もとい俺が織り成す愉快な旅の終着点は――意外や意外、辺り一面を砂で覆い尽くした殺風景な盆地である。
風情も何もあったものでは無い人の気配を一切感じさせない不毛な土地たるこの場所が、彼女らの目的地であるサイドメイドだというのだが、はたして。
人間が居住できそうな建物は勿論の事、窪地すら見当たらないここは、本当に彼女らが目指した目的地なのであろうか?
「思ったよりも長い旅路になってしまいましたが、無事到着です。アツシ様、どうもここまでありがとうございました」
「礼を言うぞアツシ様。抗戦には至らなかったが、アツシ様がいたからこそのゴールに違いない。ゆめゆめ感謝の念を忘れない様心に刻もうではないか」
「ほんとありがとねアツシ様っ! 一緒にご飯食べたり面白いお話を聞かせてくれたりで、とっても楽しかったよ!」
各々が俺に対して感謝の意を言葉にして向ける中、うんうん鷹揚な表情の下頷きつつ、俺はある種の懸念を抱いていた。
(あれ、もしかしてだけど……なんというか、この流れは――ひょっとしてここでお別れする感じ???)
確かに道中の護衛任務を請け負ったとはいえ、ドラスティック過ぎやしないだろうか、とも思う。
同じ釜の飯を食った仲(無論厳密には鍋に近しい調理器具なので、これはあくまで比喩表現だ)なのに、あっさりバイバイされちゃうのは、少々どころか多大な寂しさを感じ得ない。
違う違うそうじゃなくて、俺の感情の揺れ幅はさておき、彼女ら三姉妹と別れた後の身の振り方というか、相も変わらず要領を得ていないこの異世界において“どうやって毎日を過ごす”かが肝心要なのである。
国外に出ようものなら爆死の憂き目に遭うというある種の禁止ルールは知見として得たものの、当面の問題である衣食住をどう解決するのかが見当も付かないというのが正直なところだ。
町、集落に一度も立ち寄ることなく徒然なるままに南下してきた旅路の中で、ある程度であれば食しても人体に害のない動植物のライン引きは備わって来たものの、レジイ・バハラ・モルヴという現地民の手助けあってこその今日までである。
ぶっちゃけた話、アツシ様には生活能力が皆無であるのだ。残念ながら。
だもんで、今まで移動道具兼テントの役割を果たしていたこの馬車を何とか交渉して譲り受けて貰えないだろうか等と浅ましい奸計をけっして優れていない頭脳内にて巡らせていた最中である。
視界が真っ黒に塗りつぶされていた。
「なッ……!?」
状況が掴めないが故に、俺は驚嘆の声を上げるばかりで、俺は足の裏から根が生えるが如く立ち往生してしまう。
何しろ マ ジ で 何 も 見 え な い のだから、これはもうどうしようもないといえよう。
一瞬、日食の一種かとも思い付いたが、そんな特殊な気象現象は彼女達から聞かされていないし、それ以前になんの予備動作も無く一瞬で辺りが暗くなるこの有り様(目を凝らそうとも己の手足の輪郭すら視認できない真っ暗闇である)は、どう考えても普通ではない。
異常事態もとい非常事態である。
というか、今の所生命の危機に陥っていない(あるいは認識していないだけかもしれないが)俺はさておき、同行者たる三姉妹は無事なのであろうか。
「れ……レジイっ! あとバハラにモルヴぅぅう!! 大丈夫なのかぁぁーーー!!?」
思うな否や、俺はとりあえず腹から可能な限りのボリュームにて発声し、安否確認を実行した。
「ふふふ。ひょっとしてアツシ様は暗所恐怖症? かーわいっ」
「ひぎゃあっ!?!」
ほぼノータイムで耳元に囁かれた所為で、全力で情けない声が漏れてしまう。
そして振り返るとそこには、淡い光を受けながら微笑むレジイの姿があった。
「すみません、びっくりさせるような真似をしてしまって。いわゆるドッキリって奴ですね」
「し、心臓が止まるかと思った……」
未だバクバクと鼓動が鳴り止まない胸を押さえ、俺は冷や汗をかきながら彼女に応じる。
「さて、それでは改めてとなりますが。ご紹介しておきますね」
ここが私たちの目的地であるサイドメイドです、と。
得意げな顔立ちの彼女らによって、俺は加護者-ギフト-らの隠れ集落に足を踏み入れる事となったのである。