自爆霊穂"無実ちゃんと十一対の並行世界

前作十一人の未来罪人の続編。2021/02/22更新スタート。不定期更新。

堕ちたその先-4-

 見晴らしの良い丘の中腹辺りに移動したシヲンは、テキパキと支度を整えだした。

「さて。ほぼ何も教えずノーヒントで放り出してきたはいいが、大丈夫かね。彼は」

 全体を撮影する為の録画機材を設置し、自らの存在が露呈しないよう、付近へは最低限の準備を施していく。


「支配階級の候補から脱落した――いや、力を削ぎ落す為に供物にされた例の世界からやってきた異邦人」

「本来ならば問答無用に排除するのがセオリーなのだろうけど、私の場合はそうは言ってられないからねぇ」

 独り言をつぶやきながら、彼女は双眼鏡を覗き込む。


 視線の先には、動く事もままならない芋虫にたかる蟻の如く、黒々とした群れが紅蘭を包囲しつつあった。



「あの狗から付与された力が別世界であるここでも使えるかは不明なのはさておき」

「どうにも彼の中には 人 間 以 外 の 存 在 が 混 ざ っ て い る っぽいのだよねぇ」


 程なくして、台車が吹き飛んだ。

「えっ。嘘っ。いきなり終わるパターン?」


 期待外れだったと肩を落としかけたシヲンだったが、しかしそれは早とちりであったことを数秒後に彼女は理解らせられた。


「はぁー。やっぱり、というよりむしろこれは想定外だな――モチロン、良い意味で」



 銃火器を用いた上でも尚、圧倒的に脅威である個の群れに遭遇しながらも。



 その身を変容させた彼は 素 手 で それらを圧倒していた。



「凄まじいの一言に尽きるね。見た目はまんま化け物だけど、今の私には君、白馬に乗った王子様以上に格好よく見えるよ」

「でもって、先走っていらんことしなかったのは正解かな。思念をスキャンするにとどまっておいて本当安心」

「解剖しようとした矢先に、あんなものが飛び出して来たならば、私の命すら危うかったよ、うんうん」


 付近にいる個体を、それこそ見境なく活動停止に追い込んでいく紅蘭。

 狂戦士を連想させるその様は、清清しいの一言に尽きる暴走ぶりであった。


 当初は刈る側の立場であった個の群体らも、眼前の獲物が自分達以上に力を秘めていたことを遅まきながら悟ったのか、徐々にその場より離れる動きを見せていた。

 やがて、群れが存在しなくなった――無数の個の死体が散乱したその場の中央に立っていた紅蘭は、不意に意識を失ったのか膝を付きうつ伏せに地面へと倒れ込んだ。


「ようやく終わったようだね。つっても、これ近付いても大丈夫なのかな」


 私を敵と認識して再び襲いかかってくるのはマジ勘弁なとぼやきつつ。

 シヲンは後片付けを済ませ、彼を回収するべく元の場所に戻ることにした。