爆死から免れただけでもかなりの幸運に恵まれたヤーパン国民の中でも、更に稀少な存在である“加護者-ギフト-”が、なんと3人も俺と行動を共にしている。
運命の巡り合わせとは、些かロマンチズムに傾倒し過ぎている誇張表現にも感じられるが、これはかなり薄い所を引いている感が否めない。
「こんな時世ですから、本来わたくし達のような存在は、ヤーパン国内では信じられないくらいに優待を受けれる身分であったのです」
自嘲する様にレジイは言う。
「ですが、元ある階級社会の上位に位置する有権者の大半は、どうにもこの風潮を好ましく思ってない様でございまして……」
だから彼女らはギギに身柄を拘束――前置き無しに拉致されたのだった。
「ちなみに俺が鉢合わせにならなかったら、君たちはどうなってたんだい?」
「攫われた者達の消息は基本的にその後掴めないというか。その、行方不明になってしまうのが定説でしたから……何とも言えませんね」
頭に浮かんだ疑問をそのまま尋ねなければ良かったと、俺は後悔した。
帰らぬ人となるというのはつまり死か、あるいはそれ以上の苦痛が待ち構えていると考えるのが普通であろう。
過ぎ去り済んだことを蒸し返してしまった様な気がして、余計な事は言うべきでは無いと改めて思い知らされた。
だから話題転換も兼ねて、俺は別の話題をレジイへと振る。
「説教垂れるつもりはないし、叱るつもりも毛頭ないからこれは只の手段の話になるんだけどさ」
「えぇ。遠慮なくおっしゃって下さいまし」
「その。抵抗しようとは思わなかった訳? “加護者-ギフト-”が持ちうる、特別な能力でもって」
「残念だがアツシ様。私もレジもモルも、分からないんだ」
右掌を荷台の底にあてがい片腕だけで垂直に腕立て伏せをしながら、長女であるバハラが口を挟んできた。
「分からないとは?」
「知らない・理解していないとも言い換えられるが、要するに。己がどんな特性を持っているか不明なんだよ。3人共が、な」
「そうなんだ……」
この回答にはかなり面食らったというのが、正直な感想である。
次女のレジイは詳細不明ながらも、てっきりバハラは肉体強化系統で、末っ子のモルヴは気流操作の類の能力が備わっているものだと決めつけていた所があったからこそ。
「ボクがお空を飛べたり浮かんだり出来る“加護者-ギフト-”だと思ってたって? あははっ、違うよアツシ様。あれは元から出来る事だから、関係ないんだよ~~」
「ふぅん」
ニコニコしながらモルブはそう返したものの、割ととんでもない才能というか特性ではないのかという疑念はこの際置いておこう(ついでにバハラの筋トレのメニューも尋常では無いが一旦は気が付かなかったことにしておこう)
そして、自身の特性が分からないにもかかわらず、どうして自分が“加護者-ギフト-”たり得るのだろうかという疑問について。
これまた異世界特有のご都合主義というか、ファンタジー味溢れる国民同士の不問律が為すものであると、俺は知る。
「ヤーパン国民の大半が信仰し宗徒である“穏教-カァマニスト-”の象徴。想像の域を超える事が無かった愛しき轟龍の波動を、現実世界にてわたくしたちには感じられるようになったのです」
実際に目にしたことはありませんけれど、とレジイは照れた表情を見せた。
だからこそ俺は押し黙ってしまう、ちょっと待てと。
全裸で草原に寝そべっていたあの時……ひょっとすればその轟龍とやらを俺は目撃していたんじゃないのか?
波動とやらを今この時でさえ感じないとしても、実際あの巨大な翼を持つ生物が轟龍であるとすれば、それを直に視認出来ていたとしたならば。
自称流浪の勇者アツシ様も、例外なく“加護者-ギフト-”であるという証明に他ならいのではないだろうか???