異世界転生-2-
生暖かい汗が全身を伝う中、俺――いや 僕 はその時、雑居ビルの階段を全力で駆け上がっていた。
【!残時間00:00:00!】
【!これより爆発に移ります!】
息せき切って疾走する最中、警告音-アラート-が鳴り響いたすぐ後、自爆霊が僕の内側へとすうっと重なる。
「こんな――こんなはずじゃ―――」
未だ冒頭もいいところ、よもや序盤に等しき初っ端にて。
かつての未来大罪人たる厚山太こと僕は、他プレイヤーとの遭遇及び接触から暫くした後。
骨肉一欠片も残さず、青白い光炎と共に、爆裂霧消したのだった。
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ふわりと吹いたそよ風が、弛んだ頬を撫でている。
辺りからは小川のせせらぎないしは小鳥のさえずりが聞こえてくる。
柔らかな日差しを瞼に感じた僕は、ゆっくりと目を開いた。
見渡す限りの一面に生い茂る鮮やかな草花、雲一つない真っ青な空の下。
僕は大の字になって寝そべっていた。
起き上がり、きょろきょろと辺りを見回すも、人の気配は感じない。
死後の世界にしてはどうにも明るすぎる様相に若干の戸惑いを覚えながら、僕は耳元に手を添える。
目覚めと同時に習慣-ルーチン-でする行動の結果、当然ながら眼鏡はかけていなかった。
ならばこれは一体どうしたものだろうかと、僕は首を傾げる。
生前、裸眼視力は0.1を優に下回る目の悪さを誇る僕が、何故に眼鏡無しでここまで周囲を鮮明かつ明瞭に視覚出来ているのだろうか?
ふっと湧いた何気ない疑問を反芻しながらも、でもまぁその辺りは死ねばリセットされるのだろうかと根拠のない推察の下、僕はぺたぺたと何気なしに顔なり腕なり全身をぺたぺたと触ってみた。
うん、しっかりと感触がある。爆裂四散した筈の五体は何故だか、爆死する以前と同様に復元されているようだ。
とはいえ僕自身が霊体になっていてそう感じるだけなのではないかという懸念もないといえばなかったのだが、しかし地面や草木はちゃんと触れる事が出来たので、なんてことはない杞憂に終わった。
実体があっておまけに視力までもが回復している事実は、いやはやかなりの儲けものというかメリットに違いないのだろうが。
違いは無いのだろうが、しかし。
全裸なのはよろしくない、絶対にだ。
仮に今の僕がいるこの地が死後の世界(雰囲気的にはきっと地獄ではなく天国だろう)だとしても、一糸まとわぬすっぽんぽんたるこの姿は流石にヤバいのではないだろうかという危惧の念は、流石の僕でも容易に抱かざるを得なかった。
せめてこう……腰から鼠径部にかけてをくるっと包む布的なアイテムがあるのが普通っていうか、あってもよくない??
法というか掟というか、ともかくこの界隈において猥褻物陳列罪という概念が無いことを切に願う次第である。
と、かような想像というか妄想を脳内で展開していた最中で、不意に辺りが暗くなった。
反射的に顔を上げて空を仰ぎ見ると、そこには。
ジャンボジェット機よりも巨大な 馬 鹿 デ カ い 何 か が、悠々と上空を通過していた。
「なっ……!? なんだよあれ……」
驚愕する僕に見向きもせず、それは東の方角へと向きを変え、その姿を小さくしていく。
巨体が生む影が無くなってからも、僕は茫然とその場に立ち尽くしていた。
そしてここで、僕はある一つの可能性に思い至った。
「死んだと思ったら生き返るも目覚めればそこは日常と違う何処かで――なんだかよく分からないけど身体の悪かった部分が良化されてて――極め付きには、あの翼竜……むしろドラゴン的な超常生物がさも当たり前にいるということは、つまり――――――」
つまりは、つまりは そ う い う 事 なのか?
一時期空前のブームを生み出した、深夜アニメの7~8割をそのジャンルで埋め尽くした、いわゆる“なろう”でお馴染みの、あの――。
思い至った瞬間、僕は唾を撒き散らしながらあらん限りの精一杯で、腹の声から叫んでいた。
「いっ……! いいいいいぃいいいいい異世界転生だああぁああああああああアアアァァアア!!!!!!!」
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こうして、僕の第二の人生は。
意図せぬまま不意打ちに近い形で、晴れ晴れしく幕を開けた。