不測ハーレム-5-
一見してそれは、自立歩行を可能とする大きな岩のように見えた。
この見えたというのはあくまで見間違えが故にであってーーその正体は“顔と足首以外が露出しないぐらいにサイズが大中小細様々な石をロープで全身に括り付けている人”であった。
「こんばんわ。はじめまして。レジイの姉をやらせてもらっている、バハラです」
先般、ギギに拘束されていた三姉妹の内の長女は、ちょうど僕の肩ぐらいの高さにある、顔の形に窪んだスペースより、くぐもった声でもって自己紹介を行った。
「......はじめまして、バハラさん。俺はアツシと言います。その、嫌だったら別に回答しなくても良いのですけれど、一つ質問があって。よいでしょうか」
ボトリボトリと纏った石を地面へと落としながら、彼女は「はい。いいですよ」と快諾の意を示す。
「レジイさんからはあなたとあともう一人の妹さんは、便宜上助けを呼びに行く為に一時離脱をしたと聞いているのですが、なんで……どんな意図があってそのような格好を?」
「あぁ、これですか? 日々の習慣をミックスした、最も冴えているに違いない理由に則ったまでですよ」
答えになってないぞ岩に塗れたお嬢さん。
僕の心の内のツッコミを読み取ったのか、彼女はもうすっかり全身の石を取り除き終わった様で(だから結果辺りはゴツゴツとした石だらけになった)補足を説明を付け加えてくれた。
「私、いつも筋トレしてますから」
「き、筋トレ……?」
「えぇ。身体を鍛えるのが好きなんです。だから、筋トレ」
「はぁ……それで、どういった意図があるんですかね」
「これだけ重いと、車の荷台が重量に耐え切れなくってぶっ壊れるんじゃないのかなぁって。ね。賢いでしょう?」
「..................」
やべぇ。
この人ひょっとすると、いやひょっとしなくても、それとなく頭が悪い感じの方なのかもしれない。
しかしながら思った事を率直に伝えた所為で彼女の気分を害するのもどうかと思い、僕は引きつった愛想笑いでお茶を濁すことにした。
そんなやりとりをーー僕・レジイ・バハラの三人ともに気付かれずーー微笑を浮かべながら観察する者が荷台の上に座っていたのを、僕らはそいつから声をかけられるまで全く分からなかったのだった。