自爆霊穂"無実ちゃんと十一対の並行世界

前作十一人の未来罪人の続編。2021/02/22更新スタート。不定期更新。

不測ハーレム-4-

 情けないという感情よりも先に抱いたのは“やらかした”という後悔の念であった。


 女性にしては背の高い――175~180cmの長身のレジイは、いわずもがな女性である。


 相対するギギは10歳かそこらの子供……だとはいえ、彼が有する暴力性の折り紙付きたる脅威を、僕は既に身をもって体験している。



 大の大人二名を触れる事無く一瞬で焼死体に化してしまう、原理不明な青炎の術者。



 もとはといえばそんな危険極まりない奴に拘束されていた三人姉妹の内の一人である彼女――レジイが単身で彼を止める事などままならないと考えるのが普通であろう。


 大人しく僕が無抵抗主義を貫き、ギギの敵意を一身に受け止める覚悟があれば、その間にでも彼女は逃げおおせれたかもしれないのに。


 余計な犠牲、本来は生まれ得なかった死体をひとつ、増やす要因を作ってしまうであろう未来に、僕は激しく後悔していた。



「二度は言いません。今すぐわたくし達の目の前より消えなさい。さもなければわたくし――おっ……大声で泣き叫んでしまいますよっ」



 腰辺りまで伸びた後ろ髪を背にレジイの表情は見えなかったが、うっすらと肩が微動している点が見受けられた。


 文言だけ取り上げれば気丈に感じられる物言いも何処かしら嗚咽交じりというか、左手を顔の前に持ってきているらしいその様子は、もはや既に泣いているのではないかとも推測される。



「………………」



 常にチンピラ口調で自分以外の他人を殺害するのを微塵も厭わない、残虐性の権化ともいえる幼き処刑者ことギギは、レジイの忠告を受けて何も言葉を発さなかった。



「えっ……!?」



 静寂の後、見渡す限りの一面が青い炎で焼き尽くされると恐怖を感じた僕は、だからこそこの後の光景を目の当たりにし、おもわず驚きの声が漏れ出てしまう。




 彼、ギギは。




 黙したままに踵を返し、駆け足で明後日の方角へと駆けていったのだから。




「何で……? どうしていきなり……」


「やりましたねアツシ様! 賊たる蛮人の頭目を戦わずして引かせる手際にその貫禄、はしたないかもしれませんがわたくし虜になってしまいそうですわ!!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ね満面の笑みを浮かべるレジイだったが、如何にも解せない僕である。



 何故ギギは、危害を加える事無くしてこの場を去ったのだろうか、と。



「……ま、まぁねっ! そこそこ強かったけど、所詮は俺がヤルまでも無かったかな! はっはっはっ」


 成り行き上自分が事を収めた風な返答をしてしまったが、しかしながら事実アツシ様は一切何もしていない。


 何も対応できず、何も対策を講じれず、ただただその場にて棒の様に立ち尽くしていただけだ。


 その上、必死の思いで彼の歩みを止めた健気な彼女の功を根こそぎブン奪った、火事場ならぬ手柄泥棒でしかないのに。


 こりゃあクソゴミだのゲロカスだの言われても反論は出来ないというものだろう。



「っていうのは冗談でさ、ごめんね何も出来なくて。全部レジイさんのおかげだよ。本当にありがとう」


 罪悪感を己の内に留める器量すら持ち合わせていなかった僕は、はっきりと目を見てレジイへと感謝の意を伝えた。


 しかし窮地を脱するに至った当の最大功労者たるレジイはというと、両手を胸の前でパタパタと振りながら全く見当違いの見解を返してくる。


「いえいえ、わたくしは何もしておりません。アツシ様がいなければいずれ、酷い目にあっていたに違いないので……そう、いわばキッカケですよ! 僥倖なる機会を構築してくれた、あなた様があってこその結果なのです!!」


 いやいやいやいやどれだけ評価高いんだよと、若干引き気味の僕。



 と、ここで。


 ギギが去っていった方角より大きな物体が接近している光景に気が付いた。



 新手の追手か、あるいは援軍?


 だとしてもレスポンスが急すぎると身を固くする僕とは対照的に、レジイはそちらを振り返り待ちくたびれましたわよ~とそれへ向けて声をかけた。