自爆霊穂"無実ちゃんと十一対の並行世界

前作十一人の未来罪人の続編。2021/02/22更新スタート。出来れば毎日更新。

刺突 後 渦炎 -3-

 これまで生きて来た中で、一度死ぬ迄の然程長くない人生の中で、己にとっては争い事など無縁だった。


 殴られたことは沢山あっても自ら手を出したことは只の一度も無かった僕が、そんな僕がである。



 明らかに暴力に慣れ親しんでいるであろう名の知らぬ男を、一撃にて地に伏せ撃退したのであった。



 この珍事もとい偉業を咄嗟とはいえ成し得たからには、おのずと次にやるべき行為は限られてくる。



 一対多の鉄則、つまりは。


 各個撃破――立ち塞がる障害はひとつずつ個別に対処/除外(トライオアデリート)を心掛けるべし。


 僕はひとしきり歓喜の咆哮を上げた後、残すもう一人の男へと飛び掛かった。



「はぃいいぃいぃーーーーーッド~~~~~~~ンッ!!!」



「うっ、うわぁああああぁああああああ!!!!」



 助走を加えた渾身のフライングボディプレスが、もう一人の男へと炸裂する。


 5世代ほど前の容量限界が16bitの家庭用ゲーム機における有名な横スクロールアクションゲームの主人公の一人である、ギャングに囚われた娘を救う為に自ら腐敗したダウンタウンを練り歩く某市長のジャンプ攻撃を模倣した、ぶっつけ本番の大技であった。



「ぃよっし! やっつけたぞぉ! ……って、あれ……」


 104kgの体重にて見事男を押しつぶした僕は、ある違和感に気が付いた。



 大きく分けて2つの違和感に。



 どちらも五感に因る事象ではありながらも、まずは一つ目である自身の肉体について。


 先程如何様な原理か不明ながらも牛刀をへし折った額のかすり傷部分とは別に、刺すような痛みが感じられる。



 いや違う、“刺すような”ではなく“刺さっていた”という表現の方が正しい。



 肘と肩のちょうど中間辺り、左側二の腕より――牛刀の折れた切っ先がズッパリと刺さっていた。



「あー。うん、はいはいそゆことね……っていうか痛ぁああああァあああ!!?」


 咆哮してから程なくして絶叫する、我ながら節操のない奴だと頭が痛くなるが、しかし分かってしまえば余計にというか急激に、刺傷より過敏な痛覚が襲ってくる。


 おそらく二人目の男へ体当たりをした時に刺さったのだろう。


 しかし負傷具合は初撃の額部分よりも明らかに酷かった。


 幸い貫通はしていなかった為、無理矢理に抜かなければ出血多量の危険性は多少なりとも和らげる事が出来るだろう。



 ここまでが一つ目である自分を主においた点で、次の二つ目こそが重要であった。


 刺突傷に半泣きになっていた僕の鼻先に、何やら焦げ臭い匂いが漂ってきている。


 嗅がされた匂いだけではなく、辺りには白っぽい煙がうっすらと立ち込め始めていた。



 何かが燃えている、具体的には何が?


 そりゃあ周囲に存在するのは草花なのだから、それらが燃えているのだろう。


 草花が燃えている、なら原因は何か?


 そりゃあ周囲に存在するのは気絶した男二人と僕だけなのだから、それ以外の誰かが燃やして――。



「うっわ。こいつ等武器持ちでしかも相手ぁ丸腰なのに負けてやがる。マジで引くわ、クソゴミ以下のゴミカスかよ」



 子供の声が聞こえてきたと同時に、僕の右側に存在する草花が丸ごと消失した。



「しゃーねーなー。本当ガチのマジに面倒ぃけど? 仕事は仕事だもんなぁ~」



 小柄な身体を円の中心とした一定範囲内の あ ら ゆ る も の を 触 れ ず に 燃 や し ながら、ギギ親分と呼ばれた子供は、愚痴を零しながら僕が立つ方向へと手をかざす。



「招かれざる異物野郎が。跡形も無く燃えちまえ」