刺突 後 渦炎 -1-
突如として始まったこの状況。
例えば漫画のコマ枠内――あるいはゲームのプレイ画面が映し出されたモニターの枠内にて展開されいると、そんな仮定をしたならば。
これはきっと物語の導入部分だ。
分かり易すぎる位にあからさまなモブ悪役と事を構えるに至った、典型的な主人公キャラクターを役割として担うこの僕は。前提、
フィクション世界における通常の手順ないしは一種のお約束事――つまりは決して、大事に至らず事なきを得るに違いない。
何故なら場面は、序盤も序盤で。
未だ冒険すら始まっていない ま る で チ ュ ー ト リ ア ル で あ る か の 様 な 取るに足らない、よくある一場面-ワンシーン-でしかないのだから。
しかし。されど。奇しくも。遺憾ながら。
現実は非情を通り越し、生前とも転生後とも代わり映えのしない普遍で平常-フラット&ドライ-な其れでしかなくて。
僕はただただ、恐怖に慄(おのの)き這々の体にて逃げ出していた。
「待てコラァアアアアアアァ!!」
「大人しく刺されろォォオオ!!」
賊たる男二人組は各々手に刃物を握りしめ、退く僕へと全速力で間を詰めながら怒号を上げていた。
「だっ......なん......でッ! こんな......ァアァ!!!」
動悸が激しく息も絶え絶えとなり、信じられないくらいに鼓動がの間隔が早まってきている。
不明のベールに包まれた当事者以外にはあずかり知らない事情・都合の下、どうやら僕は彼らにとって、傷つけても良い対象であるらしかった。
いやさ、この際多少の怪我であれば我慢しよう、耐えて見せようとは思いながらも、考えたくない結末が脳内にて構築されていく。
転生してから間もなく。
厚山太は 再 び 死 に 至 る のではないのかという――笑うに笑えない結末を。
足首を軽く隠す程度であった草花は、我武者羅に逃走していくうちに、今や腰辺りの高さにまで伸びてきていた。
運動は不得手ながらも生命の危機に瀕している事が後押ししてか、幸いにも僕と追手2名との距離はそこそこ離れている。
撒くには近く捉えるには遠い、そんな絶妙な距離間を保っていた。
もう少し、あともう少しだけ走り続けて、肩口あたりにまで草花の高さが揃った辺りでその身を隠そうと、安易な施策を巡らせていた時であった。
行く手を遮る物体が一切存在しないその箇所で。
両脚のもつれに伴って大きく体勢を崩した僕は。
全体重を載せた顔面から地面へと先行し、盛大にすっ転んで身動きが取れなくなったのであった。