自爆霊穂"無実ちゃんと十一対の並行世界

前作十一人の未来罪人の続編。2021/02/22更新スタート。出来れば毎日更新。

異世界転生-4-

 一見してそれは、馬車の様なものに見えた。


 しかしながら僕が知っている馬車と大きく違う点を挙げるならば、車体を手綱で引いている2匹の生物が、あきらかに既知の馬とは異なっている点であろうか。



 首が異様に長くその先端には頭部が見当たらない。


 屈強な胴体から生えた四肢はピンクとホワイトの斑な毛並にて覆われている。



 そんな異様な風貌をした何らかの生物に跨っていた屈強な男が二人、寝ころんだままの僕へと近付いてきていた。



「なんだぁこの全裸のデブは? ここらには集落なんてねぇのに、俺らと同じならず者か?」


「んな訳ねぇだろ。大方身ぐるみ剥がされたどこぞの富裕層の坊ちゃん……って、オイちょっと待て」


「あ。ビビってんのか? さっさと始末して先を急―――あぁ、なんてことだ。こいつぁ、肌の色が……」



 松明を照らしながらこちらを伺っている二人の表情は、明らかに狼狽している様に見えた。


 顔の節々には30代半ばから40代前半特有のくたびれた皴々が刻まれており、加えて血管の脈や色が浮き上がる程に肌は白く透き通った色をしていた。


 恐らくはこの世界の住人であろう。


 だとすれば、もといだとしても、先から言動から判断するに、善悪といえば余裕で後者に該当する様な感じもするのだけれど……。



「こっ……これはこれは旅の方々、夜分遅くに驚かせてしまいすみません。誠に恐縮ではございますが、当方……この身なりの通り衣服も食料も一切持ち合わせていない路傍の石以下の存在でして、あなた様方に一切敵意はございませんが故、ひとつここは何も見なかったことでお互いしらんぷりをしてですね……」



 愛想笑いを浮かべながら、僕は中腰で媚びへつらうように両手のひらを擦り合わせ、多少詰まりながらも思い付く限りで最上の下手対応にて眼前の男達へと話しかけた。


 ところがこれはどうにも逆効果だった様で、途端に二人の男は数歩足を引きその場から後ずさってしまった。



「話が違うぞ? 漂流者-ドッグシンズ-の奴らは最強に凶悪で好戦的な戦闘狂に等しい存在だと聞いていたが……」


「待て待て、それが彼奴等の目論見かも。油断させつつ隙をみて一気に俺らの寝首を掻こうっつー算段じゃあ……」


「あいやっ、そのっ! 怪しい者かもしれませんが、本当に何ももめ事を起こすつもりはありませんので、どうかここは穏便に――」



 何やら聞きなれない単語(ドレッシングス? 調味料の一種?)を耳にしたのは一旦置いといて、相手らはますます僕に対して警戒の念を強めた様であって。


 右も左も分からない状態で、しかもその上素性の分からない団体と衝突する事態なんぞは出来る限り避けたかった為に、僕はどうすれば自分が無害な存在であるかを証明出来るかアピールポイントを脳内で必死に模索していた。


 が、その試みは実施されることなく否応なしに中断される。



「いつまでくっちゃべってんだ。バカ共が」



 車体の入り口に垂れ下がった布を手でかき分け、小奇麗な服装をした子供が姿を現した。



「日和(ひよ)ってんじゃねぇぞ。ボケナス。忘れたのか? つい今朝方あれほどキツく言われた命令を忘れちまうぐらい、てめぇらのオツムはカッスカスなのか?」



 男達の背後へと歩み寄り、その子供は所在なさげにしている男達へと舌打ちをしながら、懐から取り出した光る何かを握らせる。



「これでさっさと黙らせちまえ。グズ共。それとも何か? こんな大したことの無いお使いですら、充分にこなせねぇのか? おいおいおいおい勘弁しろってマジでよぉー」


「ちっ、違うんですよ親分。こいつなんか不気味っつーか……」


「流石に俺らがやるには手が余るっつーか……大丈夫なのかなぁって……」



 なんだか分からないが内輪揉めを始めた男2名+子供1名のやり取りを見、逃げ出すなら今がベストなのではないかと僕は腰を地面から浮かしかけた――その直後である。



「2分だ。2分だけ待ってやる」



 ぞっとするような冷たさを帯びた声が、僕と男達の動きをピタリと停止させた。



「その間でカタが付かなければ 僕 が こ の 場 を 全 て 燃 や す 」



「………………」


「………………」


「………………」



 僕を含めた三人は、一瞬呆けたように黙り込んでいたが。



「じゃ、はいっ。用意スタート。いーち、にーい、さーん……」



「うっ……うわぁあああああぁああああ!!!」


「……やったらぁあぁぁああぁあアァぁ!!!」


「ちょっ……ちょっ待ッ、ぇええええぇええぇえええええ!!!!」




 子供が読み上げるカウントの開始と同時に、丸腰どころか全裸の僕は。



 ナイフを持った男×2名に襲い掛かられたのであった。